動物はギプスができない…ペットの骨折の治し方【獣医が解説】
人間が骨折した場合と同じように、ペットの骨折も患部を固定し、安静にすることで骨がくっつきます。しかし、動物はギプスで骨を固定することができないため、骨がなかなかくっつかず、最悪の場合骨が溶けてしまうこともあります。獣医師として数々の動物の命と向き合ってきた中村泰治氏が、ペットが骨折してしまった際の治療法を解説します。
レントゲン検査では発見しにくい「成長板骨折」
骨折の検査にはCTが非常に適しています。レントゲン検査で原因が分からなかった場合に、CT検査ではっきりすることはよくあります。かかりつけ医でCT検査ができない場合は、主治医に依頼してCT検査のできる病院を紹介してもらうという方法もあります。
レントゲン検査やCT検査に加え、さまざまな情報から病気やケガを判断することもあります。
例えば、受診したのが若い動物であれば、成長板骨折というケガの可能性を疑います。
成長板とは、骨が作られる際に重要な働きをする組織の一つです。成長期の骨にはこの成長板と呼ばれる組織があり、ここで骨が作られて、少しずつ伸びて硬くなっていきます。成長板は、通常の骨よりももろいため、衝撃が加わると折れやすくなっています。
この成長板の骨折は、レントゲン検査などでは判別しにくいという特徴があります。前述のさまざまなレントゲン撮影法でも判別できない場合はCT検査を実施することで診断が可能になることもあります。
一方で、レントゲン検査では異常がなく、年齢の高いペットであれば、関節炎などの可能性も疑います。関節炎などでも歩行に問題が起きますが、レントゲンでは異常が発見しにくいからです。
ほかにもCTでしか診断できないケガは多く、整形外科領域ではCTは非常に有効な検査機器の一つです。
例えば関節の中や足首の中など、骨が複数ある場所があります。複数ある骨のうちのどこか1つだけが折れていたり、欠けている場合は、レントゲン検査だけではなかなか分かりません。
また、骨盤のような箱型の骨の骨折では、同時に複数の場所が骨折しているケースがほとんどです。その場合はレントゲン検査だけでは骨折している場所が正確に把握できません。そのようなときでもCTがあれば、正確に骨折している場所を確認することができるのです。
骨折の治療が早いほど、回復も早くなる
骨折の治療は、手術が第一選択として挙げられます。また、骨折に関しては基本的に、早ければ早いほど治療がやりやすく、その後の回復も早いことが分かっています。
骨がずれたまま放置すると、その状態のまま周囲の筋肉が固まってしまったり、仮骨を形成して折れて曲がったまま固まったりしてしまいます。また、大きな衝撃や骨の折れ方では、開放骨折と呼ばれる骨が皮膚から飛び出す状態のこともあります。開放骨折をしている場合は、通常の手術が行えず、まずは感染に対しての治療から優先します。
万が一、そのような状態になってしまうと、手術は非常に難航します。そうならないために早め早めに治療を行うのがベストです。
基本的に骨は同じ位置に1カ月程度、固定されていれば、ある程度はくっつきます。人であれば2、3カ月かかりますが、動物であれば1カ月動かさずに安静にすれば、自然につくのです。
しかし人間では一般的な、ギプスで固定して安静にするという方法は、動物では困難です。
理由は体のサイズが小さ過ぎることや、毛が多いこと、動物がギプスを噛んでしまうことなどに加え、ギプスだとどうしても小さな動きは起こってしまい、骨が動いてしまうからです。
しっかり固定ができないと骨はくっつかずに、癒合不全(ゆごうふぜん)と呼ばれる状態になってしまいます。癒合不全になると、最悪の場合は骨が溶けてしまうこともあるのです。そのような状態にまで進むと、治療方法は骨の移植や人工骨の利用など、極めて難易度の高い手術しかなくなってしまいます。早い段階ですぐに手術をしてしっかり治すことが大切です。
骨折部位を金属板で強力に固定する「プレート固定法」
骨折の手術で広く取り入れられているのは「プレート固定法」などと呼ばれる、骨折部位の固定法です。骨折した部分を切り開き、ステンレス製やチタン製などの素材のプレートと、スクリューと呼ばれるネジのような医療器具を使って、骨折した骨を固定します。近年ではロッキングシステムというプレートなども発売され、その選択肢は以前より増えてより良いインプラントが使用可能です。
プレート固定法は、動物の骨折で広く用いられている治療法です。
メリットとしては、骨折した骨を正確に元の位置に戻して固定することが可能であるほか、外見上も皮膚の上などに治療用の機器が露出することがない点です。手術の後に安静にして管理する必要があまりないため、状態によっては手術の翌日から歩くことができるケースもあります。
一方でデメリットとしては、体に大きくメスを入れて手術をするため、どうしても体への負担は避けることができません。また、プレートの固定が悪かったり、激しい動きや力によって、プレートが折れたり、スクリューが外れたりすることもあります。
骨折した初期にこの方法で手術をすれば、非常に強力かつ安定的に固定できるため、高い治療効果が期待できます。
手術の方法はいくつかありますが、当院では前足に関しては2枚のプレートで固定する方法を採用しています。これは、正面と外側から2枚のプレートで折れてしまった骨を支える手術方法です。
1回目の手術で2枚のプレートを挿入して2方向から骨を固定し、1カ月ほど経った頃に1枚だけを取り外します。なぜ1枚だけ取り外すかというと、長期間2枚のプレートで支えていると、骨が怠けてきて細くなってしまい、骨の健全な治癒につながらないからです。
少し回復してきたところで1枚だけ取り外すことで、まだ完全には治っていない骨を支えることもできますし、2枚で支えていたときよりは骨に負荷がかかるため、骨自身が怠けることなく太く、強くなる作用も期待できます。1枚抜いて力を弱めることをディスタビライゼーションといいます。
そして、完全に治ってきた頃に、必要に応じて2枚目を取り外します。2枚目についてはそのまま体内に残しておくケースも少なくありません。1枚だけのプレートであれば骨には影響がほとんどありませんし、再骨折するリスクを軽減できます。
開放骨折など、重度の骨折に使用される「創外固定法」
プレートではなくネジのついたピンを骨に刺して固定する「創外固定法」と呼ばれる方法もあります。これは、長いピンを数本、骨に刺して、皮膚の上から固定する治療法です。骨が外に飛び出てしまっているような骨折(開放骨折)や、骨が粉々になってしまっている粉砕骨折、骨折の場所が関節に近かったりプレートが挿入できないケースなどでこの方法を用いることがあります。
メリットは、骨折した場所を切開する必要がないため、動物の体への負担が小さくて済むことです。また、皮膚や筋肉を大きく切り開かないので、血液の供給を断つことがなく新しい骨がすばやく作られるため、開放骨折の初期で使用可能です。
一方でデメリットとしては、治療中は皮膚から金属が飛び出した状態になってしまうこと、骨折線をピタリと合わせることが困難であり変形が残る可能性があること、長期間は入れておけないので癒合まではもっていけないこと(途中でプレートに切り替える必要がある)、使用できる骨がかぎられていることから、動物ではあまり用いられません。
動物によっては飛び出した金属を非常に気にするケースもありますし、見た目もあまり良いとはいえません。
中村 泰治
獣医師
https://news.yahoo.co.jp/articles/e1f6aa8c83c2bf80c71dd983c1995169ce066163?page=1
PETLIFE24事務局2022.01.10
Copyright(c) INUKICHI-NEKOKICHI NETWORK, ALL Rights Resrved.