狂犬病予防、消えゆく「集合注射」 コロナ禍で見直し…獣医師ら批判
飼い犬に年1回義務付けられている狂犬病の予防注射をめぐり、自治体が春先に公園などで行う「集合注射」を見直す動きが広がっている。先行きの見えない新型コロナウイルス禍や衛生面の課題などが理由で、こうした自治体では動物病院での接種への一本化が進む見通しだ。ただ、狂犬病は発症すると致死率がほぼ100%の恐ろしい病気。獣医師からは「接種率の低下を招きかねない」といった批判の声も上がる。

■「3密」リスク回避

狂犬病のワクチン接種は狂犬病予防法で年1回義務付けられており、違反すれば20万円以下の罰金の可能性もある。飼い主は、各自治体の保健所が例年4?6月に公園や公民館などで実施する集合注射か、動物病院での接種かを選べる。

風向きが変わったのはコロナの感染拡大が始まった昨年から。飼い主が接種会場に集まる「3密」リスクなどを理由に、各自治体は集合注射を軒並み中止とし、病院での接種を呼びかけた。今年も
コロナ禍が続き、多くの自治体が集合注射を見合わせた。

このため、来年以降の集合注射のあり方を見直す自治体が出てきた。

大阪府吹田市は屋外での集合注射をやめ、「屋内注射会場」として市が指定した動物病院での接種を基本する方向で、地元獣医師会と検討を進めている。市保健所の担当者は「雨などの影響がある屋外より、屋内での注射の方が衛生的に望ましい」と説明する。

■動物病院に一本化

懸念されるのは接種率の低下だ。コロナ禍前、吹田市では屋外の集団注射が全体の約4割を占めていた。アイン動物病院(同市)の美濃部(みのべ)五三男(いさお)院長は「オープンな場所での集合注射は、狂犬病予防の広報にもなっていた」と訴える。

大阪府豊中市は、コロナ禍の状況が見通せないとして、早くも来年の集合注射の中止を決めた。再来年以降も従来の接種方法を見直す必要があるとしている。

これに対し、豊中市獣医師会の城之内信一会長は「行政のコストカットとしか受け取れず、獣医師会に仕事を丸投げしているようにしか見えない」と批判。かかりつけの動物病院を持たない飼い主が、接種を怠ることも危惧している。

仙台市は今年から公園などでの集合注射をとりやめ、動物病院での個別接種に一本化。担当者は理由として衛生面や犬同士のトラブル回避などを挙げる。神戸市も動物病院が増えていることなどから、集合注射を徐々に縮小する方針だ。

こうした動きに、日本獣医師会は「集合注射をやめることで接種率が下がれば狂犬病予防法の考えに逆行することになる。慎重に議論してほしい」と強調。厚生労働省も接種率の向上が重要とし、「地域の実情に応じ地元獣医師らと連携してほしい」と呼びかける。

■国内接種率71・3%

狂犬病は日本国内では60年以上も感染が確認されておらず、危機意識の薄れなどから予防注射の接種率が下がっている。一方、世界では毎年約6万人が命を落としており、アジアやアフリカなど発展途上国を中心に今も猛威をふるう。

国内ではワクチン接種の徹底もあって、人への感染が確認されたのは昭和31年が最後。ただ、厚生労働省によると、平成元年の予防注射の接種率は99・2%に上っていたが、令和元年は71・3%と約30年で大きく減少した。

大阪府立大大学院の安木真世准教授(獣医学)によると、犬全体の70%に接種できれば集団免疫の獲得が見込まれる。国内では統計上、この水準をかろうじて維持しているものの、すでに危惧すべき状況が起きている可能性が高い。

一般社団法人ペットフード協会の推計によると、令和元年の全国の犬の飼育数は約880万頭。国が把握する同年の登録数(約615万頭)とは大きな隔たりがあり、事実上の接種率は70%を大きく下回っているとみられる。

狂犬病ウイルスは感染した動物にかまれると体内に入り、ほぼ全ての哺乳類が感染する可能性がある。感染源は犬だけでなく、コウモリなどのケースも。かまれた場合は適切にワクチンを打てば発症を防げるが、首や顔をかまれた場合は潜伏期が短く、ワクチンの効果が出る前に発症することもある。

ワクチン接種はすべての医療機関でできるとは限らず、安木氏は「発症を抑える方法はあるがハードルは高い。若い人の間で年々危機意識が低下していることを危惧している」と話した。(藤木祥平)

PETLIFE24事務局2021.12.20

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