「ねこの寿命30歳」を目指す 病気検知トイレのこだわりと進化

「ねこの寿命30歳」を目指す 病気検知トイレのこだわりと進化

腎臓病は、飼い猫の死因のトップに挙げられる病気だ。15歳以上の猫は81%が慢性腎不全だといわれている。初期段階では症状が伴わないことが多く、早期発見が難しい。

この事実に着目し、開発されたサービスが伸びている。2015年に創業したトレッタキャッツが開発・提供している猫用のスマートトイレ「Toletta(トレッタ)」だ。

365日自動で猫の尿データなどから健康チェックができるサービスで、2019年にサービスがローンチされて以降、順調にユーザーを伸ばし、現在は2万匹の猫が「トレッタ」を利用しているという。

2022年9月には、ペットケア業界の中でも特に革新的なサービスに贈られる「Pet Innovation Awards」で、「Litter Box(猫用トイレ)Product of the Year」を受賞した。

同社は「目指せ。ねこの寿命30歳」を掲げており、2022年3月にサービス内容を拡充。猫の体調結果を踏まえた獣医師からのメッセージ送信、病気や対処方法の正しい知識を調べることができる猫の病気辞典など、トイレ記録サービスから総合的な猫の健康管理サービスへと進化をしている。

“猫ファースト”なサービスを作り続ける秘訣を、代表の堀宏治(ほり・こうじ)に聞いた。

■2万頭の猫が利用中のスマートトイレ「トレッタ」
まずはサービスを詳しく説明しよう。トレッタは、猫が入ると重量センサーが感知し、尿量や、体重、トイレの入室回数、滞在時間など、健康に関わる指標を計測してアプリに自動で記録する。

計測したデータや食事の記録をもとに、獣医師と共同開発したAIが猫の健康をチェック。異常があれば飼い主に腎不全を含めた病気の可能性を示し、動物病院への受診をすすめる仕組みだ。

トイレのカメラには複数の猫の顔を識別できる技術が搭載されているため、多頭飼いにも対応可能だ。またカメラはネット接続されており、飼い主は外出先からでも猫の様子を見ることができる。
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顧客からも「愛猫と暮らす上で欠かせないサービス」と評価され、月間解約率は1.5%程度。平均解約率が3?10%と言われているSaaS業界では実現するのが簡単ではない数字だ。

東日本大震災を機に、ペット領域へ参入

■医療業界から未経験のペット業界へ参入した理由
トレッタを手掛ける堀のキャリアは、意外にもペット業界とは違う場所でスタートしている。

大学卒業後はNTTデータで病院情報のシステム開発に約10年携わり、その後、ジョンソン・エンド・ジョンソンで病院経営コンサルティングに従事。その後、保護犬猫のウェブサイトや犬の歯磨きサービスなど数回の起業と事業売却を経て、現在のトレッタキャッツを創業した。

なぜ、医療業界から全くの異業界であるペット領域へ参入したのか。きっかけは、2011年に起こった東日本大震災だという。

「津波や地震でペットが飼い主を失ったり、避難所や復興住宅に連れていけず放置されたペットたちが殺処分されているという話をニュースで知り、強い憤りと悲しみを覚えました。
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そこからペット問題に関心を持つようになり、日本で初めて殺処分ゼロを達成したという熊本市動物愛護センターへ足を運んだんです。そのとき、殺処分に使われていた機械を見学したのですが、強烈に人のエゴを感じたと同時に『すべてのペットを幸せにする事業をやりたい』と思った。これが私の原動力です」

■猫ファーストなものづくり
「すべてのペットを幸せにしたい」。堀の想いは、プロダクトにも現れている。
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「トレッタの開発中、『複数の猫をどう識別するか』に悩みました。猫の平均飼育数は1.73匹といわれていて、多頭飼いのお家が多いんです。はじめはICチップを使うという案もありましたが、猫を飼っているスタッフと『猫の負担を考えると、チップ付きの首輪は着けさせたくないね』という結論になりました。
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猫に今まで通りの生活をしてもらいながら、何の負担もなく健康管理をするにはどうしたらいいか?と考えて、顔認識カメラを開発しました。他にもトイレの大きさや猫砂の形状なども、猫の現状の生活を維持したまま使えるようこだわっています」

ペットビジネスは活況を呈しているが、フードのようにすでに多くの競合が存在する領域もあり、軌道に乗せるのは簡単ではない。大企業でも撤退するケースがあるが、スタートアップのようにペット好きな社員でチームを構成することができず、ペット目線での事業作りが難しいという側面もあるだろう。実際、ペット専業の上場企業は少ない。

そうしたなか、堀はどう事業を成り立たせてきたのだろうか。

特に意思決定をするときには、メンバーに対して次の2つを意識することを伝えているという。
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一つは「キャットファーストかどうか」、もう一つは「利益が出るかどうか」だ。

2つの軸を追求し、猫砂の販売を中止

「この意思決定は本当に猫にとって優しいのかどうか、という視点は常に意識していたいですが、利益が出ないものは、企業活動ができなくなってしまう。企業活動ができなければ猫を幸せにするためのサービス提供もできなくなりますから、両方成立していないとGOは出せません」
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この2つの軸を追求した結果、泣く泣く販売を中止した製品もあるという。
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「猫砂を自社で作っていたのですが、尿が猫砂を通過する際に、尿のpH値が変わってしまうことが分かったんです。これは尿が他のものに触れることによって化学反応を起こしているからです。とはいえ、実は多くの猫砂商品も化学反応を防ぐことはできていないですし、猫の体に害があるわけでもありません。
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でも、獣医から尿検査の結果が正しく出ない可能性があると指摘され、その点がどうしても引っかかってしまった。

苦渋の決断でしたが結果的に販売を中止し、今、尿の成分が変わらないものを開発中です。開発はやっぱり大変ですが(笑)、目処はついてきたので春にはリリースできると思います」

■今後はがん検知も
トレッタキャッツは、2020年の秋から米国にも進出している。世界展開も進めるなか、堀はすでに次の課題解決を見据えている。
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「社内でも2匹の猫を飼っているのですが、1匹が、がんになってしまった。結構、進行してしまっているんです。健康診断には頻繁に連れていっていたのに、どうして気づいてあげられなかったんだろうって、本当に悔しくて……。
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猫の死って、圧倒的にがんと慢性腎不全が多いんです。現在の我々のサービスは、慢性腎不全に対しては非常に効果的なサービスだという自負があります。それは早期発見が可能であり、早期発見が可能であれば対処も素早くできるからです。
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一方、がんに対してはまだ解決できていないので、そちらにも取り組みたいという想いがあります」

最近では、尿からがんを発見できるような人間のためのテクノロジーが出てきている。そのなかで堀は「トレッタは猫の尿の回数や量などを計測して健康状態をチェックしてきましたが、それに加えて尿の成分を分析できるようなサービスを拡充させていきたいと思っているところ」と話す。
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病気を未然に防ぎ、猫の快適なライフスタイルの構築に向けて取り組んでいるトレッタキャッツ。猫が1分1秒でも長く幸せに生きられる世の中の実現に期待したい。

Forbes JAPAN 編集部

PETLIFE24事務局2023.03.29

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