シベリアンハスキーのユキちゃんと2匹の猫の日常動画が27万人超のフォロワーを日々ほんわかさせてくれる、かもしか(@b09a2032c)さんのツイッター。仲良くおやつを食べていた3匹ですが、ユキちゃんが突然ネコたちの分を横取りし始め、猫たちが「仕方ないなァ…」という感じで譲ってしまう様子に思わず笑ってしまいます。
ユキちゃんと猫たちの食事事情を聞くと「おやつは犬用のものは犬だけに、猫用のものは猫にも犬にも与えたりしています。普段のごはんはしっかり分けていますよ。猫のご飯は犬の届かないところに置いています。ユキの食欲がすごいときは猫の分を奪ったりするので」とのこと。主食は犬用と猫用をちゃんと区別して与えているそうです。
CIAOチュールとWanチュールのように、今ではペットフードは猫用と犬用がラインアップされているのが当たり前。「ですが昔は猫用フードというものがなく、猫にドッグフードを与え続けていたら具合が悪くなったというような事がきっかけとなりキャットフードが開発されました」と動物行動学が専門の摂南大学農学部・池田裕美助教は話します。では先生、猫の犬の食事事情を詳しく教えてください!
?やはり猫にドッグフードはNGなんですか?
「そもそもひと昔前は、人が食べた後の残飯を餌として与えていたので、飼育している犬や猫の食事についてそこまで深く考えられてはいませんでした。猫に至っては放し飼いが普通でしたので、一体どこで何をしてきたのか、何を食べてきたのかもわからない状態だったのではないかと...。今となってはペットフードの開発が発展したことに加え、室内飼いが普通になり獣医療も進歩したので寿命が伸びていますが、1980年代の平均寿命は犬も猫も今の半分以下でした。日本初のドッグフードは1960年のビタワンですが、キャットフードが登場するのは10年近く後のこと。そんな時代にはドッグフードを飼い猫に与えている方もおられたようです」
?そうなんですね。
「でも猫に必要な栄養素で、ドッグフードには含まれていないものがあるのです。たとえば栄養ドリンクのCMを通じてタウリンという成分をご存じかもしれません。タウリンは正確に言えばアミノ酸に似た栄養素であり、栄養学の分野では便宜上アミノ酸としてまとめられています。猫にとっても犬にとっても生命維持に重要な役割を持つのですが、猫は他のアミノ酸からタウリンを合成するための酵素の働きが低いため、自分の体内では充分な量を作ることができないんです。体内で必要な量を作ることができないアミノ酸を必須アミノ酸といいます。だから経口摂取して補う必要があり、キャットフードにはあらかじめタウリンが含まれています」
「一方で、犬はこのタウリンを体内で充分な量を他のアミノ酸から合成できるので、非必須アミノ酸とされておりドッグフードには含まれていないんですね。そのドッグフードを食べ続けたために、タウリン不足で猫に網膜の変性や拡張型心筋症、子猫の発育異常などのタウリン欠乏症が生じてしまったというわけです」
?昔、我が家では冷ご飯に鰹節をかけた?猫まんま?が愛猫の主食でした。これでタウリン補給は十分だったのでしょうか?
「ほとんど炭水化物なので、おそらく不足していたと思います(笑)。猫は炭水化物の代謝が得意ではないですし、他の栄養素も不足していたのではないかと...。でもその猫ちゃんは放し飼いだったのですよね。自由に外へ出ることができる猫は自分で小動物などを捕まえて必要な栄養を補っていると思われます。ネズミや小鳥などの肉類を食べればタウリンは摂取できます」
?ちなみに猫に必要な1日あたりの摂取カロリーっていくらぐらいなんですか?
「おおよそですが、仮に体重4キロであった場合のエネルギー要求量は320?カロリー程度とされています。実はネズミ1匹捕まえて30?カロリー程度なので、これだと1日10数匹食べないとクリアできない数字と言われているのです」
?ネズミ10匹!野良猫だと1日中獲物を探していないといけないですね。のんびり歩いている姿からは想像できません。
「実際に1日10匹狩りに成功して食べている猫はあまりいないでしょうね(笑)。人間から餌をもらっている野良猫がいるかもしれませんし、ネズミ以外に小鳥や昆虫、爬虫類などを食べてカロリーを確保しているのでしょう。痩せている野良ちゃんも多いですし、多くはお腹をすかせて日々生きているのではないでしょうか」
?他に猫と犬の食事で特徴的な違いはありますか?
「猫は身体のつくりから見ても完全肉食で、炭水化物を摂らなくても生命活動が維持できるようになっています。ご飯のような炭水化物を与えても栄養素的には十分ではなく、炭水化物が多すぎる場合は消化や代謝に影響を与えてしまうことも考えられます。他に食べるものがない場合は仕方なく食べているのかもしれませんね」
「一方の犬は雑食です。タウリンは肉類や魚介類などの動物性食物に多く含まれており、そのような食べ物をメインに食べてきた猫はタウリンを体内で充分な量を合成する必要がなくなり、逆に犬は雑食であるために体内で合成する能力を獲得し続けたとも言えますね。この食性の違いから代謝の違いも生じています。このことが『猫はベジタリアンにはなれない』と言われる理由ですね。与えているフードの栄養成分の表示を確認したり、改めて食事内容にも目を向けてもらうことで小さな家族の長生きに繋がると良いなと思います」
◆池田裕美(いけだ・ひろみ) 摂南大学農学部応用生物科学科助教。1988年、熊本県出身。鹿児島大学農学部卒業、九州大学生物資源環境科学府資源生物科学専攻・博士課程修了。専門は動物行動学、動物栄養学。雨の日の軒先で保護した茶トラの「とら」と暮らす。
報知新聞社